結論
「やめとけ」の根拠としてよく挙がる離職率・残業時間・有給取得率は、有価証券報告書の開示項目ではありません。つまり公開情報では確認できません。一方で平均勤続年数・男性の育児休業取得率・男女の賃金の差異・平均年間給与は原典で確認できます。このページでは、確認できる数字だけを並べ、そこから何が言えて何が言えないのかを切り分けます。
出典: 各社有価証券報告書(原典PDF)/最終確認日: 2026年9月30日
「やめとけ」の根拠は公開情報で確認できるのか
広告代理店について「やめとけ」「激務」「きつい」と語られるとき、根拠として挙がるのはたいてい次の4つです。
- 労働時間が長い
- 離職率が高い
- 休みが取りにくい
- 年収に見合わない
ここで問題になるのは、このうち3つは有価証券報告書に書かれていないという点です。離職率・平均残業時間・有給休暇取得率は、有価証券報告書の法定開示項目ではありません。本記事で確認した8社の有価証券報告書にも、いずれも記載がありませんでした。
したがって「広告代理店は激務か」という問いに、公開されている一次情報だけで答えることはできません。当サイトは推測で埋めない方針のため、ここは「分からない」と書きます。
では、有価証券報告書で確認できるのは何か
働き方に関わる項目で、上場企業が有価証券報告書で開示しているのは次の5つです。
| 項目 | 何が表れるか |
|---|---|
| 平均勤続年数 | 在籍期間の長さ。ただし後述の注意点がある |
| 平均年齢 | 年齢構成。勤続年数とあわせて読む必要がある |
| 平均年間給与 | 提出会社単体の水準 |
| 男性の育児休業等取得率 | 制度が実際に使われているか |
| 男女の賃金の差異/女性管理職比率 | 職種構成・等級分布の偏り |
「激務かどうか」は分かりませんが、「人が残っているか」「制度が使われているか」は分かります。以下では平均勤続年数を見ます。
平均勤続年数を有報で比較する
ここでも当サイトの基本方針どおり、持株会社と事業会社を分けて並べます。混ぜると比較になりません。
事業会社の平均勤続年数
| 会社 | 従業員数 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社博報堂 | 4,580名 | 40.1歳 | 12.4年 | 10,990千円 |
| 株式会社サイバーエージェント | 2,588名 | 33.8歳 | 6.5年 | 9,138千円 |
| 株式会社Hakuhodo DY ONE | 2,690名 | 32.4歳 | 5.9年 | 5,829千円 |
| 株式会社Speee | 601名 | 29.6歳 | 3年2ヵ月 | 5,731千円 |
※博報堂・Hakuhodo DY ONEは第23期(2026年3月31日現在)、サイバーエージェントは第28期(2025年9月30日現在)、Speeeは第18期(2025年9月30日現在)。
持株会社の平均勤続年数
| 会社 | 従業員数 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社電通グループ | 135名 | 45.0歳 | 14.3年 | 15,959千円 |
| 株式会社博報堂DYホールディングス | 144名 | 42.5歳 | 13.0年 | 11,683千円 |
| 株式会社デジタルホールディングス | 75名 | 40.7歳 | 9.3年 | 6,878千円 |
| 株式会社セプテーニ・ホールディングス | 97名 | 34.9歳 | 7.3年 | 6,552千円 |
※電通グループは第177期(2025年12月31日現在)、博報堂DYホールディングスは第23期(2026年3月31日現在)、デジタルホールディングスは第31期(2024年12月31日現在)、セプテーニ・ホールディングスは第35期(2025年12月31日現在)。
この数字を「離職率」と読み替えてはいけない理由
平均勤続年数が短い会社を「人が辞めている会社」と読むのは誤りです。平均勤続年数は次の3つに強く影響されます。
- 会社の設立からの年数 ── 設立20年の会社に勤続30年の社員は存在しません
- 直近の採用人数 ── 採用を増やすと勤続年数の短い社員が増え、平均は下がります
- 平均年齢 ── 29.6歳の会社と40.1歳の会社では、取りうる勤続年数の上限が違います
実際、上の2つの表では平均年齢が高い会社ほど平均勤続年数も長いという関係がほぼそのまま出ています。平均年齢29.6歳の株式会社Speeeが3年2ヵ月、40.1歳の株式会社博報堂が12.4年です。これは定着の良し悪しというより、会社の年齢構成の違いを見ているのに近い数字です。
したがって平均勤続年数から言えるのは、「その会社が今どういう年齢構成で動いているか」までです。離職率の代わりには使えません。
年収と勤続年数をあわせて見ると何が分かるか
1つだけ、はっきり読み取れることがあります。平均年間給与の高い会社は、いずれも平均年齢と平均勤続年数も高いという点です。
株式会社博報堂は40.1歳・勤続12.4年で1,099万円、株式会社Hakuhodo DY ONEは32.4歳・勤続5.9年で583万円です。同じグループでも約1.9倍の差がありますが、年齢で7.7歳、勤続年数で6.5年の違いがあります。
つまり「広告代理店の平均年収は高い」という話の多くは、平均年齢が高い会社の数字を見ているということです。20代で転職を検討している場合、平均値はそのまま自分に当てはまりません。
結局、何を見て判断すればいいのか
有価証券報告書から判断材料として取れるのは、次の順番です。
- その会社は持株会社か事業会社か ── これを外すと年収の数字を読み間違えます
- 平均年齢と平均勤続年数 ── 自分の年齢と比べて、平均年収が参考になるかを判断する
- 男性の育児休業取得率 ── 制度が実際に使われているかが分かる唯一の公開指標です
- 男女の賃金の差異・女性管理職比率 ── 職種構成と昇進の実態が表れます
労働時間については、有価証券報告書では分かりません。ここは公開情報の限界として認識しておくほかありません。
育児休業取得率・女性管理職比率・男女賃金差異の42社分の一覧は 広告代理店42社の多様性指標 に、年収の全体像は 広告代理店の年収一覧 にまとめています。
まとめ
- 離職率・残業時間・有給取得率は有価証券報告書の開示項目ではない。「激務か」は公開情報では確認できない
- 確認できるのは平均勤続年数・平均年齢・平均年間給与・育休取得率・男女賃金差異・女性管理職比率の6項目
- 事業会社の平均勤続年数は3年2ヵ月〜12.4年、持株会社は7.3年〜14.3年
- 平均勤続年数を離職率の代わりに使うことはできない。設立年数・採用人数・平均年齢に強く影響される
- 平均年収が高い会社は平均年齢も高い。20代の転職検討では平均値はそのまま当てはまらない
よくある質問
有価証券報告書から離職率は分かりますか?
分かりません。離職率・平均残業時間・有給休暇取得率は有価証券報告書の法定開示項目ではなく、本記事で確認した8社の有価証券報告書にも記載はありませんでした。
平均勤続年数が短い会社は離職率が高いということですか?
そうとは限りません。平均勤続年数は「設立からの年数」「直近の採用人数」「平均年齢」に強く影響されます。設立が新しい会社や採用を拡大している会社は、離職が少なくても平均勤続年数が短く出ます。
広告代理店の平均勤続年数はどのくらいですか?
本記事で確認した範囲では、事業会社は株式会社博報堂12.4年、株式会社サイバーエージェント6.5年、株式会社Hakuhodo DY ONE 5.9年、株式会社Speee 3年2ヵ月です。持株会社は株式会社電通グループ14.3年、株式会社博報堂DYホールディングス13.0年、株式会社デジタルホールディングス9.3年、株式会社セプテーニ・ホールディングス7.3年です。
「激務かどうか」は公開情報で確認できますか?
有価証券報告書からは確認できません。労働時間に関する記載がないためです。確認できるのは平均勤続年数・男性の育児休業取得率・男女の賃金の差異・管理職に占める女性比率・平均年間給与の5つです。
出典
- 株式会社電通グループ 第177期 有価証券報告書
- 株式会社博報堂DYホールディングス 第23期 有価証券報告書(「第4 提出会社の状況 5 従業員の状況等」)
- 株式会社サイバーエージェント 第28期 有価証券報告書
- 株式会社Speee 第18期 有価証券報告書
- 株式会社セプテーニ・ホールディングス 第35期 有価証券報告書
- 株式会社デジタルホールディングス 第31期 有価証券報告書
最終確認日: 2026年9月30日/本記事は各社の労働環境の優劣を評価するものではありません。記載した数値はすべて有価証券報告書の原典から確認したものです。